【岐阜県高山市】情熱と地元の繋がりが、健康なおいしさに繋がる

農業・菜園・畜産

生まれてから出荷まで抗生物質や合成抗菌剤、ホルモン剤などの薬剤を一切使わない養豚にこだわりをもつ吉野毅さん。そのブランド「飛騨旨豚」は東海地区を中心とした大手スーパーなどで販売されています。大規模な農場で薬剤を使用しないためには、豚が病気になる感染リスクを減らしていくことが重要なポイントになります。そのために、豚の健康管理や豚舎内の衛生対策に力を入れています。外部から病気を持ちこまないように感染予防に細心の注意が払われています。その背景には、健康な豚を責任をもって消費者の食卓に届けるという、吉野さんの想いがありました。

創業者の吉野毅さん(左)、妻聡子さん(右)。創業当時から夫婦2人で協力してともに歩んできた。
岐阜県高山市【有限会社 吉野ジーピーファーム 吉野毅さん】

取材日:2016年1月15日

薬と同じ量のエサを摂取している子豚を見て

畜産系の大学を卒業して、5年間勤めた後、27歳の時に一念発起して養豚を始めた吉野さん。実家は養鶏農家でしたが、養豚に将来性を見出し、挑戦。牛、鶏とたくさんの種類がいる家畜の中から豚を選んだのは、学生時代に所属した柔道部の先輩の先見的な展望に影響を受けたことがきっかけでした。

「もともとはその先輩とは柔道部の上下関係で子豚の移動など、力仕事をよく頼まれたんです(笑)。でも、そこが当時日本の最先端を走る農場で、なんだこれは!?と驚きました。豚舎の床が全部すのこ。しかも豚が自由に動ける平飼いで、全ての豚の糞尿が下に落ちる仕組みになっていたんです。衛生に対する意識がとても高い農場で、将来的にぜひこういうことやってみたいと思いました」。

30年前の養豚現場は生産効率を高めるあまりに、豚は狭い所に押し込められ、排泄物の臭いがこもり、健康的な豚を育てるための生育環境とはいえない状況でした。悪臭は豚肉にまで移るため、生産者にとっても一般消費者にとっても、いいとはいえませんでした。
豚以外の選択肢として、牛もありましたが、当時は牛肉に対する貿易自由化の波がきていたので、吉野さんは牛では厳しいだろうと判断。豚はきちんとやればビジネスとして成り立つと考え、ご両親や妻の聡子さんたち家族を説得して、養豚を始めました。
衛生面の高い農場を創りたいと将来を意識していた矢先、養豚を学ぶ研修先の農場で、吉野さんは頭を殴られたような衝撃を受ける出来事がありました。

そこにあったのは、子豚用のエサの隣に積み上げられた同じ量の抗生物質。その抗生物質が幼い子豚のミルクに入れられて、その豚肉が人間の口に入って食べられている、当時の生産現場の現実でした。
「おかしい、こんなやり方にはついていけないと思いました。やるんだったら、とことんやってやろうじゃないか。ある生育ステージだけ、薬を与えないのではなく、生まれてからお肉になるまでの期間、無投薬にしようじゃないかと決意しました」。

まず、吉野さんは出身地である岐阜県高山市に第1農場を造り、SPF豚(特定疾病不在豚:Specific-Pathogen-
Free)という病原体を持っていない豚を仕入れて、自分の農場で繁殖させることから挑戦しました。現在では当たり前になっている、農場に入る人が浴びる消毒用のシャワーや農場に持ち込む物を紫外線で殺菌する機械は、平成元年当時、生産現場にはほとんどありませんでした。最初から薬を少なくして始めたいと思っていたため、豚をいかに病気にさせず育てていくのかを追求する、吉野さんの試行錯誤の日々の幕開けでした。

反骨心に燃える日々、そして、無投薬で育つ豚との出会い

無投薬で育てられている飛騨旨豚。吉野さんたちの管理体制が行き届き、咳をしていない。
平成13年から14年までの1年間は、従業員が一丸となって病気を持ちこまないということと、豚への投薬を減らすことに注力してきた吉野さん。多くの豚が病気になれば、出荷量にまで影響が出てしまうため、完全な無投薬にはできていない時期でした。そんな時、人づてに生まれてから出荷するまで無投薬で育てられる飼料があると聞きました。

「それが岐阜アグリフーズ㈱さんの製造されている飼料『EMフィード』との出会いでした。最初はホントか!?と思ったんです。大手スーパーでその豚肉を買って食べてみたら、肉の臭みがなくて本当においしかった。これがEMの力だと聞いて取り組んでみたいと思ったんです。導入当初は大変でしたが、乳酸菌やEMの力を借りながら、ようやく今では出荷も安定しています。安全安心に挑戦してみたい、チャレンジしてみたいという想いは持ち続けていましたが、今思い返すとずいぶんと大変なことをしたと、自分ながらに思います」と当時を振り返る吉野さん。
EMフィードを使えば、完全無投薬が実現できると確信をした吉野さんは、まず一部の豚でスタートし、飼育方法が安定してから全面的に一斉切替をしました。その1年後に岐阜アグリフーズ㈱の宇野さんの協力のもと、地元の名前をとって「飛騨旨豚」と命名し、世の中に送り出すことにしました。

「養豚の本来の姿は、病気にならないように豚を飼育しながら、無投薬で育てている姿。無投薬だから安全に食べられる豚として出荷するのではなく、無投薬かつ元気で健康な豚を育てていきたい」。その想いを抱きながら吉野さんは順調に農場の規模を拡大し、平成26年には中津川農場を新設。今では、1万頭の豚を無投薬で育てています。

規模が大きくなるほど、1頭の豚が病気になれば、農場全体に損害が拡大するリスクは上がります。豚は感染症にかかると咳をしますが、吉野さんたちの徹底された努力により、豚たちは咳をすることもないそうです。発熱した従業員には必ず休んで在宅してもらい、鳥インフルエンザが流行した時は、毎朝、検温チェック表を作成して対応しました。自分の状態が悪いと集中力も下がるので、管理が甘くなるのを防ぐためにそうしています。高山農場と中津川農場を行き来するときは、必ず3日間は豚に接触しない期間を設けてから、農場に入るように徹底しています。

外部から来るエサや豚を輸送する専用車両もリスクのひとつとして、農場に入るまでに洗車を行います。農場の外に専用の洗車スタンドがあり、タイヤ周りは特に念入りに汚れを落とします。そうすることで、豚たちの病気のリスクが下がり、無投薬の豚をたくさん生産できる体制が整います。

地元との繋がりが豚肉の美味しさを作る

吉野さんは、地元の生産者同士の連携を大事にし、互いを高め合う関係づくりを意識しています。第2農場のある岐阜県中津川市は栗の産地で、10月から2月の期間にエサに栗を与えて「栗旨豚」として期間限定のブランド商品を作っています。鬼皮は吉野さんたちが剥いであげているそうで、まるで子どもを育てるような愛を感じます。

「栗の取り組みは生産地を盛り上げたくてやっています。どうしても生産者の顔がわかるエサにしたかった。その縁も不思議なもので、今は栗生産農家の方が飛騨旨豚を食べたいって、言ってくださるので嬉しい循環が生まれています」。
地元だと生産の現場や生産履歴が把握しやすいため、豚の飼料として安全性を確認しやすいという良さがありました。耕畜連携をすることで、社会問題にもなっている耕作放棄地を減らすこともできます。
岐阜アグリフーズ(株)宇野孝之部長(左)。男同士の固い絆で「飛騨旨豚」を全国区のブランドへ押し上げる。
「おいしい豚をつくるために、ブラインドテスト(盲検試験)を繰り返しながら、おいしい豚肉を常に研究しています。玄米を粉にしてペレット化したエサをあげている農場も珍しいと思います。そうすると消化率がいいし、あっさりしているけど、味がしっかりのった豚肉になります。配合を変えたりして、美味しさの追求をし続けています」。

飛騨旨豚のおいしさの特徴は酸化しにくい旨味成分のオレイン酸が多いこと。より質がよく美味しい豚肉にするため、バークシャー種(黒豚)と交配させたものを「飛騨旨豚」と定義しています。そのため、飛騨旨豚の肉は繊維が柔らかいのに、歯ごたえも良いと評判です。「大雪による災害で倒木による長時間停電になり小さなライトを照らしながら、毎晩何十頭と出荷作業をした日々もありました。年末にかけて豚肉の需要が高まる最重要期だから、つながりのある人たちに迷惑がかかるため、休むわけにはいきません。期間中ずっと、豚舎に泊まり込みをして、肉の加工場へ送りだしたため、大変な状況の時もありましたよ(笑)」と繁忙期を振り返る吉野さん。今では東海3県にある大手スーパーまで販路を拡大し、飛騨旨豚の美味しさを全国に発信中です。

食卓に笑顔と安全な豚を届けるために…

吉野さんは別の農場をもう1ヶ所に作り、農場ごとのオールインオールアウト方式を採用した養豚をすることを目指しています。オールインオールアウト方式とは、豚舎に一斉に豚を入れて一斉に豚を出荷することで、豚がいなくなった豚舎には洗浄と消毒と乾燥をして一定期間空けてから豚を入舎させる方法です。それができれば、感染リスクを今よりも低減できます。
「ウイルスのような見えないものを入れないようにするのはどうしても難しい。病気や災害のリスクはあるけれども、離れている場所で3ヶ所同時に運営していければ、お客様にご迷惑をおかけすることが少なくなります。近くにある農場の豚が感染症にかかり出荷停止になれば、こちらも出荷制限がかかってしまいます。中津川と高山で離れていれば、同時に制限がかかることもないはず。各所に点在をして感染リスクを減らしていきたい。その中で、拠点を最低3ヶ所はもって、農場ごとのオールインオールアウトを目指していきたいと考えています。世に1頭でも多く送り出したいと思っています」。
油がほとばしるアツアツの「飛騨旨豚のとんてき」肉厚で濃厚な香りが食欲をくすぐる。
今年、平成28年は、岐阜県から選ばれる「飛騨美濃特産名人」に吉野さんは認定され、その優れた豚の生産体制や耕畜連携を意識したエサへのこだわりは地域の農業振興に貢献していると評価されました。
今、学生時代に衝撃を受け、懸命に思い描いた吉野さんの夢は着々と近づいています。吉野さんを中心とした地元の生産者同士の繋がりが「飛騨旨豚」を通して、家庭の食卓に笑顔をこれからも届け続けます。 
豚丼にしてもおいしい。一度食べるとクセになる噛みごたえ。

飛騨旨豚が食べられるお店

素材蔵 福吉
岐阜県恵那市長島町中野2丁目9-2
TEL.0573-25-1287
※取材させていただいたお店(写真)

お食事処 たつ家
岐阜県中津川市落合58-1
TEL.0573-67-9229

こだわりの飛騨旨豚が直接買えるお店

旨豚とんかつ かつ吉
岐阜県恵那市長島町中野2丁目2-14
TEL.0573-25-2231 

イオン新瑞橋店
愛知県名古屋市南区菊住1丁目7-10
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