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健康の決め手は微生物!

「除菌」は健康の近道なのか?

病院は清潔なところだと思っている方が多いようですが、それは違います。風邪やインフルエンザの人が咳をすれば何千何万のウイルスが飛び交いますし、薬剤耐性菌も病棟にいます。無菌室やICU、重度感染患者さんの病室は別としても、病院は病原体の巣窟だと思っていた方がいいです。

テレビCMでは除菌!抗菌!!と、「菌は汚くて悪い」というイメージが繰り返され、多くの方はそのように洗脳されています。地球上で最も数の多い生命体は微生物であり、私たちの身の回りにも想像を絶する菌数(1人の身体にも1000兆個ほど)が生着しています。

1回の深呼吸でも5万個以上が肺に入ると言われるほど空中を漂っており、日常生活での完全除菌は不可能です。それどころか、「除菌」は、いいも悪いも「除いて」しまう行為なので、私たちに必要な菌たちも死んでしまいます。皮膚などの表面や腸にいる菌とは、私たちは共生関係にあるので、除菌をすればするだけ健康から遠ざかる結果となります。

からだを守る常在菌

人体は弱アルカリ性ですが、皮膚表面は弱酸性です。皮膚常在菌が皮脂を食べて乳酸などの有機酸を排泄しているために弱酸性になります。この酸性が悪玉菌の繁殖を防いでくれています。ですから皮膚常在菌を洗いすぎて除菌してしまうと、皮膚は弱アルカリとなり、この環境では悪玉菌が発生しやすくなります(皮膚がカビてしまう病気がありますが、悪玉菌に支配された状態です)。この皮膚常在菌は我々皮膚の大切なバリアーとなっていますので、むやみに洗い流したり、無用な除菌をしてはいけません。

女性の場合は膣内も酸性となっており、デーデルライン桿菌(乳酸菌の仲間)がいつの間にか棲んでいて、酸性環境を保ち悪玉菌の繁殖を許さないバリアーとなっています。ところが、ビデの普及によりこの桿菌を過度に洗い流してしまう人が増え、悪玉菌の繁殖を許して膣炎となる若い女性が増えています。

過剰な「除菌」が 耐性菌や食中毒を生む

耐性菌や、O-157の感染は何処で起きていますか? 殆どの場合、耐性菌は病院、食中毒は学校給食や飲食店などで発生しています。病院における薬剤耐性菌の発生は、抗生物質の使いすぎが原因である事は明白です。また、食中毒の発生は、「衛生管理」を徹底するがゆえに起こっているのでしょう。共通点は除菌と考えられます。

化学物質で除菌し続ければ、その環境を生き抜く能力を持った菌が大量繁殖するのは当然です。その典型とも言える菌が薬剤耐性菌です。抗生物質により生存の危機を察知した菌が薬剤耐性能力を獲得するのは、生命体としては当然です。食中毒を防ぐ為の塩素消毒も、更なる強い菌を作り出すだけではないでしょうか。

薬剤耐性菌は恐いと考えられていますが、生命力の7割ほどを裂いて耐性能力を発揮しているので極めて生命力は弱い菌なのです。毒素を出す大腸菌の一種であるO-157も同様で、毒素を作る事に労力を裂いているので生命力は弱い菌です。腸内細菌が整っていると直ぐに他の菌の餌になってしまいます。

要は、過剰な塩素消毒を止め、抗生物質の使用期間は極力短くし、腸内環境を善玉優位に整えた方がいいのです。

善玉菌の代表である酵母と乳酸菌が薬剤耐性を持つとは聞いたことがありません。ですから、除菌し続ければ悪玉菌を抑制する善玉菌も減り、生命力の弱い病原菌(薬剤耐性菌やO 157など)ですら元気に生きていける環境になります。

 

病原菌に勝つ人・負ける人

同じ食材を食べても食中毒になる人と、ならない人がいるのは何故でしょうか?ならない人は、病原菌を殺す能力をその人が特別に持っている訳ではなく、病原菌を物ともしない豊富な腸内細菌叢(様々な菌が共存共栄している状態)を持っているのです。常日頃から発酵食品などで善玉菌を摂り続け、共生関係にある腸内細菌叢を善玉化し続ける事が、病原菌を寄せつけない事になるのです。

東京大学の服部教授の研究によれば、ある種のビフィズス菌が作り出す酢酸が、O 157が作り出す毒素の血液中への吸収を防ぐことがわかりました。善玉菌の恩恵は計り知れません。

病原菌と言えば、胃の中にいるヘリコバクター・ピロリ菌が有名です。胃炎や胃癌を引き起こすと考えられ、見つかれば除菌が定番となっています。しかし、日本人の80%の人が感染しているピロリ菌は本当に病原菌なのでしょうか?

ピロリ菌は、胃酸過多になった場合に胃酸を減らす指示を伝えるタンパク質を作ります。このタンパク質が胃潰瘍の原因に関与しているので、ピロリ菌=胃潰瘍という構図ができましたが、問題はなぜ胃酸過多になったのかです。

この根幹は、ストレスによる交感神経緊張によると言われています。ピロリ菌を除菌する前に、まずはストレス解消やリラックスすることが先決であると言えるでしょう。

また、ピロリ菌は食欲を制御する物質も作っていると考えられており、除菌すると食欲を押さえきれず、食べ過ぎて太る可能性もあるそうです。菌は本当に不思議ですね。稚拙な人知では到底及ばない存在です。

 

誰でもすぐにできる健康法

 健康への道を考えた場合、善玉菌の恩恵を存分に受けることが近道だと思います(善玉菌を味方につけた方が断然有利なことは本誌16号を参照してください)。発酵食品で種々の善玉菌を積極的に摂り入れ、腸内細菌を育み、良いウンチを毎日出し続けることです。、腸内細菌叢を善玉の状態にし続ければ良いのですから、たった今から誰にでもできる健康法です。

 
田中 佳 医師 / ドクターセラピスト
昭和60年に東海大学医学部卒業後、同大学付属病院脳神経外科助手を経て、市中病院で急性期医療に長年携わる。脳神経外科学会および抗加齢医学界の専門医となり、悪性脳腫瘍に関する研究で医学博士を取得。現在は、食や生活習慣、日用品、心の在り方など多岐にわたる方面から健康への道筋を広く発信している。著書、講演、オンライン講座多数。元日本脳神経外科学会認定専門医/日本抗加齢医学会認定専門医/直傳靈氣療法師/整膚師/ISBA(国際シンギングボウル協会)上級認定および認定プレーヤー/ホメオパス(クラシカル)
https://capybara-tanaka.com/