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安眠を探る Part 1

カルシウムの役割は骨だけじゃない

興奮とリラックスに関わるカルシウム

寝る前に温めた牛乳を飲むと安眠できるという話しがありますが、真意は不明なものの、カルシウムが神経細胞の興奮と関連性があるところから出てきているようです。

カルシウムは生きていく上で重要なミネラルですが、骨粗鬆症くらいしか意識されておりません。実は、日常生活で、他にも重要な役割があり、筋肉の収縮と弛緩はカルシウムのお陰です。いわゆる筋肉(横紋筋)を動かして移動するにはカルシウムが無くてはなりません。

同じ筋肉でも心臓、動脈の平滑筋(血管平滑筋の収縮と拡張は血圧に関わる)は自分の意志では動かすことはできず、
全自動です。交感神経と副交感神経の自律神経支配です。カルシウムは筋肉だけではなく、神経細胞の興奮と鎮静などとも関わっている重要なミネラルです。

低カルシウム血症(血液中を漂うカルシウムの低下)で筋肉が痙攣するテタニーという病気がありますが、ほとんどが特殊な基礎疾患があり、日常生活ではそう簡単に起こりません。

身近ではサッカーの延長戦などで足が吊る選手がいますが、このような筋肉の使いすぎの状態くらいです。しかし、高齢者でも足が吊りやすいという方が多いのは筋肉でのカルシウム利用が上手くいかないか、カルシウム不足の可能性があります。高齢者の場合は温めたり動いたりして血液の循環をよくすれば良かろうと思います。
 

カルシウムはマグネシウムとリンとのバランスが大切

カルシウムはマグネシウムとリンとのバランスが重要。
細胞膜にはカルシウムチャンネルという細胞の中へカルシウムを入れるドアがあり、筋肉の収縮や神経細胞の興奮に関わっています。入りっぱなしでは無く、外に出すポンプもあります。

入れるのはドアを開ければ入りますが、出すには気合いで排出するのでエネルギーが必要です。なんだか不思議ですが、危険回避などでは俊敏な動きが求められますので、カルシウムを細胞内へサッと入れて速やかに筋肉細胞が使う必要が有るからだと思われます。

その指令を出す神経の興奮も遅かったら危険回避の指令を出せませんから理に適っていますね。生命現象は実に好妙で素晴らしい。

だからと言ってカルシウムだけ摂ろうとしてはいけません。このカルシウムというミネラルは単独では無く、マグネシウムとリンの三種類でバランスを取っているからです。

この三種類のうちの一つだけを過剰に取ればバランスを失い、生命活動に支障をきたします。また、マグネシウムはあらゆる代謝に関わる重要なミネラルで、カルシウムと共に骨に貯蔵されています。

リンは通常の食生活で不足することは無いと考えられており、敢えて摂る必要はありません。ただ、牛肉にはリンが多いので、バランスを取るためにはカルシウムとマグネシウムを積極的に摂った方がいいでしょう。食材としては種子類(特にゴマ、大豆)、海藻類、卵、チーズなどなどです。

注意すべきは人工精製物です。お手軽ですが、精製物は身体にとっては純度が高く、負担となると考えておりますので、同じサプリメントならば天然素材を用いている物から摂った方が良いでしょう。カルシウムは人体に重要であると言う事が少しはおわかり頂けたと思います。

「安眠」には様々な要因が絡んでいる

カルシウムは重要であるが故に、極めて厳密な制御を受けています。食事でカルシウムを摂ったからと言って、血液中のカルシウムイオン濃度が激しく上下されては困りますし、家族団欒の食直前に全員がイライラしたり、足が吊っている訳ではありません。イライラはカルシウム以外にも血糖や脳内物質なども絡んできます。

人体は小宇宙です。複雑怪奇なシステムによって営まれており、まだまだ解明されていないことはたくさん有るのです。
科学や医学も進歩してはいますが、まだまだ人知は余りにも未熟なのです。ですから、こうすれば大丈夫ということは無いと考えて頂きたい。

ミネラルは不足しないように食材から摂り続けることが大切ですが、日々では無く、週単位で考えませんと気が休まりません。ここ数日野菜を食べていないから今日は多めに摂ろうという意識でいないと疲れますからね。
 

脳の活動を安定化させるセロトニン

ヨガや瞑想でセロトニンの分泌を促進
あと、脳の活動を安定化させる重要な物質としてはセロトニンが有名です。三大脳内物質(ドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニン)の1つですね。

セロトニンには、脳を一定レベルに活動させる役割と、リラックスさせる役割があります。慢性的な不足により、精神のバランスを崩すと考えられており、うつ病や暴力的な行動(切れやすい)と関連性があるとも言われています。

このセロトニンはトリプトファンという必須アミノ酸から作られます。必須アミノ酸は9種類あり(ロイシン、イソロイシン、リジン、バリン、トリプトファン、メチオニン、フェニールアラニン、スレオニン、ヒスチジン)、体内では作る事が出来ないため食材から摂らなければなりません。

この必須アミノ酸が理想的に揃っている食材を「アミノ酸スコア100点食材」と言い、代表的な食材は牛乳と卵です。牛乳の是非がよく世間では言われていますが、乳糖不耐症でなければ(下痢しなければ)、カロリーに注意して摂り入れれば良いと、私は思っています(脂質が多いため高カロリー)。お嫌な方は複数のタンパク質を摂り入れて満点を目指して下さい。

あと、セロトニンの分泌はヨガや瞑想などでも増えるようなので、生活の中に「精神安静の儀式」も取り入れると良いかも知れませんね。
 
田中 佳 医師 / ドクターセラピスト
昭和60年に東海大学医学部卒業後、同大学付属病院脳神経外科助手を経て、市中病院で急性期医療に長年携わる。脳神経外科学会および抗加齢医学界の専門医となり、悪性脳腫瘍に関する研究で医学博士を取得。現在は、食や生活習慣、日用品、心の在り方など多岐にわたる方面から健康への道筋を広く発信している。著書、講演、オンライン講座多数。元日本脳神経外科学会認定専門医/日本抗加齢医学会認定専門医/直傳靈氣療法師/整膚師/ISBA(国際シンギングボウル協会)上級認定および認定プレーヤー/ホメオパス(クラシカル)
https://capybara-tanaka.com/