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時が生み出すMIKURAの黄金の旨味

米酢、ワインビネガー、リンゴ酢、黒酢…巷には様々な種類の「酢」が並ぶ。酢は塩に並ぶ人類最古の調味料と言われ、古くから防腐、疲労回復、食欲増進などに利用されてきました。食酢メーカーの多くが仕入れたアルコールを原料に機械を使って麹をつくる中、「待ちこがれのお酢」の製造メーカーである株式会社トーエーでは自社で麹造りから一貫して手掛けています。

時の流れが生む旨味

株式会社トーエー 代表取締役の伊藤志乃さん


「安く大量に造る方法では、1日でアルコールからお酢ができます。玄米酢では半年以上の時間をかけてお酢を造っています。このかけた時間だけ、カドの取れたまるみのある味になるんですよ。

混ぜるのは最初だけで、あとは自然の対流にまかせます。お茶も、急須の中に茶葉を入れてお湯を入れたら、ゆすらない方がおいしいらしいです。急須の中で対流するお湯でゆっくり抽出してください、とお茶屋さんに言われたことがあります。ついつい、慌てて急須をゆすってしまうけど、時間をかけることの価値ってありますよね。」

歴史がないから、これから伝統をつくっていく

「当社ができたのは2008年。元々は酢を仕入れて小売する販売会社でした。2011年に起きた紀伊半島大水害で、仕入元だった製造会社が水害の直撃を受けて、一時、操業中断を余儀なくされました。

この時、当時の代表がお酢の販売だけではなく、製造もすることに決めたそうです。製造元の職人が、種酢だけは!と必死に守った少しの種酢を元に、当社で新しいお酢を造り始めました。その職人ごと受け入れて、現在、当社がある御浜町に蔵を構え、販売業から製造業に代わりました。私が引き継いだのが2016年です。」

私はその会社と直接関わりがなかったのですが、知人に紹介され、引き受けることにしました。なんで引き受けたのか自分でもわからないのですが、やることになった。

今、製造を担当してくれている福井さんも、酢造りをしていたわけではないので、私たちは会社も若ければ経験もないんです。でも、だからこそ、純粋に勉強するしかない、というところがいいと思っています。

伝統があるわけではなく、これから伝統をつくっていける立ち位置だから。」

 

そぎ落とされていない「なにか」

酢の原料はアルコール。米から日本酒を造り、お酢にしたものは米酢、ブドウの果汁をワインにして造ったものはワインビネガー、玄米(または小麦や大麦を足したもの)を原料にしたものは米黒酢と分類されます。

ただ、自社で酒造りからしている食酢メーカーは少なく、その多くがアルコールを仕入れて酢を造る中、MIKURAでは自社で麹から手掛けてこだわりを貫いています。
 
「お酢を造るための技術の伝承を考えた時、麹づくりからお酢になるまでの一連の流れがわかっていないといけないと思ったんです。麹をつくるプロ、酒を仕込むプロ、その道の専門家に委託することもできますが、それでは技術の伝承にはなりません。自社で田んぼを持って、お米から作れたら理想的ですけどね。」

「砂糖も、塩も、言葉だって、精製されたものってあまり良くない感じがするんです。

インターネットの会議で、姿が見えて言葉も聞こえるけど、そぎ落とされてしまった何かがあるじゃないですか。それが、電話で音だけになり、メールで文字だけになると、ますます相手とのコミュニケーションが難しくなります。受け取り方によって全然違う印象になるし、その時の気分にも左右されやすい。

お酢も一緒で、そぎ落として必要なものだけにすると味わいのない、ただのすっぱい酢になってしまいます。手間をかけるとか、時間をかけるとか、愛情は原材料ではないけれど、そうしたものも全部含めた『情報』、そぎ落とされていない『情報』も含めた、包括的なところが重要なんじゃないかと思って造っています。」

MIKURAには、「美(ミ)しい暮ら(クラ)し」という想いが込められているそう。美しさの定義は人によって大きく異なる。「健康で快適な美しい暮らし」を願う​お酢からは、そぎ落とされすぎない、自然体な美しさが感じられます。
 
  • 酸素が好きな酢酸菌たちは、木桶の表面に集まって膜を張る。言葉のないコミュニケーションをとりながら、アルコールを酢に変えていく。
  • 機械を使って麹をつくる醸造所が多い中、MIKURAでは昔ながらの麹蓋を使用し、大事に麹を育てている。